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[小説] あなたの手を取るその前に 著:火崎勇

「あ…、いや…っ。痛…」
「十分に濡らしていないから痛むか。だがそれでもお前は私を受け入れる。そうだな?」
 それしか道はない、と言われた気がして、私は目を閉じ、唇を噛み締めた。
 あの時は、二人が一つに繋がることに喜びを感じたのに、今はただ辛いだけ。
 身体の中に彼を感じても、異物としか思えなかった。

(あなたの手を取るその前に p139)


4879193143あなたの手を取るその前に (ガブリエラ文庫)
火崎 勇 池上紗京
三交社 2015-03-25

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幾度となく戦争の噂が流れる、豊かな国クラウドと貧乏国セイカの国境の街エンデバでお針子を目指すフラウは、街の外の岩山で足を怪我した青年に出会う。
見捨てるわけにもいかず、彼――コールの怪我が直るまで世話を焼くことに。その彼の怪我治癒するまでの三週間で、コールとフラウは、お互いを縛るものがないただの男と女として距離を縮め結ばれる。
フラウ自身、彼との恋は一夜限り、この先恋を知れたという、コールを愛する想いを胸に生きていこうとしていたとき、セイカ国王の庶子である自分に迎えがやってきた。それは、敵国エンデバの王に政略結婚のための迎えだった。
しかし、赴いた先の国、エンデバ国王コーネリウスは、フラウの愛したコールその人だった――。



最初、粗筋を読んだときは、いつもの火崎✕池上コンビの作品だというのに、なんとなく手が出てなかった。
ボーイミーツガール系で、怪我の世話を焼くうちにいつしか――なんていう、ベタ感というか、TLのきらきら感あるのかな?と、別にTLお約束のキラキラ要素が好きなわけでもないのに、なんとなくスルーしてた。

なので、普通にレビューの評価もいいし読んでみようかなんて手をつけてみたら、今まで読んだ火崎作品でもしかしたら一番かも……なんて思うくらいには、自分の中でツボに来た作品でした。

火崎先生の作品は、お約束感があって、話はベタすぎるくらいベタでとても安心して読めるんだけど、なぜか全然退屈に思えない。
一人称作品って下手をすれば、くどい印象を持ったり、語り手に感情移入しやすい反面、その人物に対する読者としての気持ちも両極端なものになったりもするんだけど、火崎ヒロインは、本当にいいこちゃんなんです。いや、こうやって書くと、なんかあれだけど、不快感のないヒロイン象というのかな? 貞淑で、自ら己を律して動く、そして一途に相手を想うので、不快感がない。
と、今回のヒロインもひたむきな感じで、賢くて、ヒーローを一途に想って――ってのは同じなんだけど、一応国王の庶子であるとはいえ、生まれてからずっと田舎町で暮らしていたこともあり、まして王女教育なんて受けたこともない。
そんなヒロインであるフラウが、生まれを利用され、戦争回避のための政略結婚として、想う人が胸にいるのに知らない男に嫁がなければいかなくなる。

読者としては、作中で、二人が最初に出会ってから別れるまでの間、フラウが自身の出自を語る時点で、自分の父親がセイカ国王かもしれないというあたりで、話の展開は読めるものだと思う。
もちろん、その読みどおりに話は進むんだけど、フラウとコーネリウスの間にすんなり幸せは訪れないw
コーネリウス自身、彼女が隣国の王の娘だとわかり彼女と一緒になる一縷の望みもあって、こういった政略結婚という形にし、ドヤ顔で再会するも、愛の言葉なんて言われてないし、フラウは自分の出自を利用された、コーネリウスに愛されて望まれたわけではないと彼に対し頑なになる。
そして、コーネリウス本人も、彼女が再会を喜んでると思っていたのに寝耳に水、自分を金で買った、娼婦扱いしたと訴えられる。フラウも自分の身に両国の『平和』がかかっているからと、自分の立場を受け入れるしかなくなる。
ほんのちょっとの意識の違いでこうもこじれるかってくらい、二人の間はすれ違うのが面白いです。

そして、いつもの火崎ヒロインとちょっと違うなって思ったのが、フラウは、自分の教養のなさや政略結婚で嫁がされた被害者意識に卑屈になった部分もあるってところ。それを人に諭されるまで、自ら努力はしていなかったと自覚し、コーネリウスの王妃として様々なことを学んでいくところが素敵でした。

また、作中には、コーネリウスの妹カップルがいて、彼女リンディアが、フラウの良き友人になるんだけど、結構彼女が中途半端な情報をフラウに与えてくれるせいで、フラウはコーネリウスに自分ではない好きな相手がいるとか思う始末w
そんな妹姫は、庭師と身分違いの恋に誰にも言えず悩み中。フラウは自由な恋ができたはずなのに、政略結婚に巻き込まれたことで、望んでない結婚を強いられたことに仲間意識を持って打ち解ける。
そして、フラウはフラウで、自分の恋は叶わないから、妹姫の恋を応援しようと、身分違いの結婚をするにはなんて人に聞いたりして、そしてまたそれがコーネリウスの耳に入って、また妹姫と庭師を取り持とうと動いたせいで、コーネリウスにいらぬ勘違いをされてしまったりwww
嫉妬というかなりお約束な展開ではあるんですが、ここも火崎ヒーローにしては、ヒロインに対しての余裕のなさっぷりが素敵でした。火崎ヒーローって、いつも高みから余裕で無知なヒロインを翻弄してるだけって部分もあるので。

結局のところ、フラウと庭師が一緒にいるところを勘違いして暴走して、妹姫たちの関係も知れて、皆幸せにうまく収まりましたーってなります。

欲を言えば、結婚式まで見たかったなーというのが本音。
そして、火崎作品では、いつもあとがきでのさらっと語られる二人の今後を覘いて見たいという思いが募ります。

と、全体像を考えると、結構今回濡れ場自体は三シーンと少なめかなぁと思わなくもなかった。
ページ数も少なめっちゃ少なめな感じだったけど、なんだか凄く満足感あった。
甘々と痛さの両方を兼ね備えて、結構痛い思いしてるヒロインが可愛いと思えてしまう自分はすごく良かったです。初っぱなから無理やりってのは、なんかパターン的な何かが見えるんだけど、中盤に痛い部分があったのもまたいいなぁと思いました。


そして、最後に。
挿絵の絡み絵がすごく綺麗でした。

私、池上さんの絵って、表紙の色遣いとかすごい綺麗だって思うけど、挿絵ってなんだかなぁというか、「さらわれスノーホワイト」読んだときは、なんか変って印象が持ってました。特に濡れ場は違和感あった。でも、最近、って言ってもそんなに読んでないけど、「囚われの姫と黒の覇王」を読んだときも変に思う部分はなかったというか、これもいい話でエロも満足できた。
ガブリエラ文庫だと、エロも内容も安心感あるかななんて思う始末。次作で、また火崎✕池上コンビのガブリエラ文庫だと、予約買いしたいなと思いました。まぁ、校正ミスみたいなところはあるけど、校正ミスが気にならないのなんて、たぶん、TLジャンルだと講談社のWH文庫しかないんじゃないかなとか思う。
WH文庫と言えば、もうすぐ同著者の「秘密を抱く花嫁 真実の愛に溺れて」が発売されます。

WH文庫の作品は、「誘惑された花嫁候補」「花嫁はもう一度恋をする」の両作を読んでいますが、前者はイラストが好みじゃなかったのもあってあまり好きではなかったけど、後者は記憶喪失設定だけで設定避けしたい感じの私でも素直に面白いと思える作品でした。

そして、そんなWH文庫から出る新作が男装物だという!!!
男装設定大好きな自分は、書き手が火崎先生というだけで、久しぶりのTL予約買いです。
以前、男装というだけで地雷踏んだのもあって、大好きな設定だからこそ、とりあえずやることが前提のTLでは敢えてほとんど手をつけなかったジャンルでもあったりします。

はたして、1冊で終わるTL作品で男装という両者にとってのもどかしさをどう火崎先生が展開してくださるかが楽しみでなりません。


ということで、なんか話はそれましたが、「あなたの手を取るその前に」、お勧めです。



あなたの手を取るその前に (ガブリエラ文庫)あなたの手を取るその前に (ガブリエラ文庫)
火崎 勇 池上紗京

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